富田睦子『さやの響き』

おそらくは頭蓋のかたさ右腹のしこりに触れれば金の陽のさす

心臓を吸いだすごとく乳を飲むみどり子はつか朱(あけ)に染まりて

永遠に笑顔であらねば後ろ指さされる気がする子を抱き歩けば

プレと呼ぶ二歳児クラスに集う子ら紙吹雪めく両手を掲げて

分かち合うキャラメル身ぬちにほどけゆくママ友というかりそめの友

富田睦子    『さやの響き』より

 

濃密な母子の香りの満ちる第一歌集。あとがきに「私の生活を大きく占めていたのは妊娠・出産・育児でした」とある通り、母としての歌が大部分を占める。一首目のように「右腹のしこり」であった幼子は、作者の肉体から別れ、じわりじわりと社会的な存在感を増してゆく。五首目は「ママ友」という微妙な関係性を肉を伴った言葉で批評している。           (嵯峨直樹)

2014.6 未来 「今月の歌」