本田一弘 『磐梯』

 

人はみな誰かの逆旅 夕されば死者ひとり来てひとり逆(むか)ふる

この花は誰(たれ)のあなうら亡き子らの白く小さなあなうらひらく

のどけしな磐梯の田は田植機をあまた侍らせ昼寝をしたる

超音波機器あてられて少女らのももいろの喉はつかにひかる

忘れえぬこゑみちてゐる夏のそら死者は生者を許さざりけり

 

福島在住の作者の第三歌集。東日本大震災、福島第二原発の事故の影響が歌集全体を覆う。挽歌も多いが妙にほの明るい印象を受けるのは掲出一首目に見られるような死生観のゆえだろう。
最後に挙げた一首は、歌集でも最後に収められている。かつてこの世を共に編んでいた死者は私達が命を終えるまで他者になってはくれない。(嵯峨直樹)

2015.5 未来 「今月の歌」