盛夏の手紙

 

美しくカーブしている肋骨の内がわに建つ薄明の城

紫陽花の数か所枯れて枯れつくすまで待ちわびる盛夏の手紙(ふみ)を

雨の来る噂があって鳥獣店前の十字路人影まばら

薄白い機影が空を飛んでいる剥がれはじめた世界のように

側溝に片寄り落ちる青梅の傷つきあいの日々もあったか

体温は葡萄のいろの室内に確かにあった  指を離すな

雨粒を弾いて揺れているうちに匂いたちたり白き花々

触れているだけで硬さを増してゆく類いのことは放置しておけ

赤茄子の汁滴らせ食べるひと髪先を頬に遊ばせながら

一日を雨が濡らしていたらしい 胸の底部の湿りに気づく

身体は闇に閉じかね濡れている一つの愛を遂げたる後も

乱れたる髪かきわけて白い耳を発掘したり夏空の下

夏空の底に沈める滓のごと歩みておりぬ 人というもの

『美志』2号 2011年