Author Archives: owner

歌集からもれた歌(神の翼)2

先日あげた「終わりの日」というタイトルは後から修正したもので元は「世界消灯」という一連だった(更に前の原稿を見つけて知った)。
実際は「わらわらと仮想の僕が走りだすしなるペニスを振りまわしつつ」という何やらテンションの高い歌から始まる一連で、最後は、「世界消灯、世界消灯、アナウンス聞こえくる朝制服を着る」という歌集に収めた歌で終わっている。
歌集に入れるかどうかをこの一連だけは岡井さんに聞き、入れなくていいんじゃないか、と言われた覚えがある。冒頭の一首が原因だったのだろうと思う。

同系統のものには、「1999年7の月」がある。同世代になら分かるかの予言をネタにしている。

1999年7の月

さしこみ口にさしこむものが見つかってレベルが上がる上ガル日がくる

千年を待っていました靴下の片一方が降ってくる日を

 

 

歌集からもれた歌(神の翼)1

終りの日

建物がゆっくり倒れてゆくまひるきれいな風が眠りを誘う

システムの飛ばした白いセスナ機が僕の頭上をばくぜんとゆく

海ぎわの発電施設が放射する無色の毒が身体を洗う

破損した腿の中から血の液があふれ出ているまだ生きていた

歩くたび液が出るから階段を汚してしまう傷ついた人

水くんで水くんで人にかけているまだ生きているかも知れなくて

しんでいるひとらの上でみぎ→ひだり防犯カメラの確かな軌跡

標識の矢印のさす方角が僕の歴史のゆきつくところ

老人は影をなくしてしにましたペデストリアンデッキの上で

昼ごろは晴れていました夕方は晴れていました大災害の日

太陽はくりかえし来て表面を一定量の光で満たす

あくる朝影のきわだつ瓦礫から石を拾ってポケットに入れる


自身の歌を読み返している。

歌集からもれた歌(半地下)2

盛夏の手紙

体温は葡萄のいろの室内に確かにあった 指を離すな

一日を雨が濡らしていたらしい胸の底部の湿りに気づく

身体は闇に閉じかね濡れている一つの愛を遂げたる後も

初出「美志 復刊2号」


3首目は
下句が定型的な表現になっている。これは意図しているが、問題は重すぎる事だった。
こういったコメント付きなら発表したい歌。

歌集からもれた歌(半地下)1

ささくれ

たましいの輪郭すこしささくれて。暗く流れる川をみている

その名前だけはセカイの底にある はるかな夏に開く向日葵

8階の小部屋でランチの封を解く チキンの匂いに少し落ち着く

くちづけに次ぐくちづけで現実を防いでいると月がしろいよ

たましいの底部の傷を探りだす手つきで後ろから抱いている

放尿の音がするどく響く部屋 非常にふかく繋がった後

どうぶつの匂いが一瞬きつくなる髪をいじって遊んでいると

口中の蜜を探っている舌のぬくみを思う雪ふる夜に

 

初出「美志 復刊1号」


どんな歌を佳い歌とするかは、その時その時でちがう。
露悪的になる時の素直な感情のうごきを最近は嫌いじゃない。
しかし、数年後は、また違うかも知れない。

2018年12月

コスモスのかたち溢れる ゆれる血を結んだような小さな予感

満月はしろく濁って身じろぎのたびにかすかな息をこぼした

あかい夕 白い手足の絡まりを活けて円かな月球うかぶ

手垢のついた表現について2

自身について考えるために書く。

海音にふたりの部屋は閉ざされてもういい何も話さなくても

率直にいうと、自作でありながら、私はこの歌が好きなのだ。
こういった瞬間は、恋愛の只中にあれば誰しも経験する事だと思う。ある甘やかないっとき。
それでいて、シチュエーションが出来過ぎているから、現実には無かった風景のようでもある。
こうあって欲しいが、永遠に(死ぬまで)かなわない風景。

もう少しこの世界に拘泥して描き切っておきたかった。

類似歌について

ツイッターで武田穂佳さんが以下のような指摘をしてくれた。

少し時間をおいた上で今日はこの指摘について書こうと思う。
私は盛岡の短歌甲子園の審査員を長くしていて、土谷さんの歌は2015年、盛岡四校が優勝した年の優秀作品賞を受賞している。

参照元: 第10回 全国高校生短歌大会(短歌甲子園2015)

まだ君は眠ってるだろう
静けさの
自転車置き場は海に似ている 土谷映里

私のは、その次の年(2016年)の短歌研究5月号の為に作った。

もう君は不在だったかこの朝の駐輪場は銀色の海 嵯峨直樹

  • 土谷さんの「まだ君」とわたしの「もう君」という初句の類似。
  • 二句切れ
  • 初句~二句まで心情の吐露、三句目以降がイメージ
  • 自転車置き場=海という発想の類似

オマージュであったらまだマシだが、作歌している時に、私の頭には土谷さんの歌はなかった(つもりであった)。土谷さんの歌の喚起した美しいイメージや、歌のすがたが私の無意識に沈殿して、作歌の際に引き出されたのだと思う。それが自分はとても怖い。

ちなみに私のは三鷹駅前の駐輪場のイメージで、かつて亡くなった友人への挽歌のつもりであった。

土谷さんは武田さんがSNSで指摘するはるか前に気づいていて、不快に思っていたのではないか。心よりお詫びする。
武田さんのご指摘にも感謝。

盗用かどうかについては微妙なところではないかというのが私の今の見解である。

短歌研究に発表した私の一連を以下に参考までに。

 

アブセンス                嵯峨直樹

艶やかな文字の点れる伊勢佐木に煙のような月は昇れり

もう君は不在だったかこの朝の駐輪場は銀色の海

今日も見る紅(べに)淡き梅崩えながら曇天の苦の風に馴染めり

マンションの白い光を載せている波あまたなり郊外の川

穏やかな離散を約束されながら瑞々しくもふきのとう咲く

ゆらゆらと血に浸りいる種あって春雨の打つ音ひびかせる

(短歌研究2016.5)

 

わたしの一連に関して言えば、強く主張するほどの独自性はないと言えるし、またそのようにしている。もしかしたら、自身のこの作法が今回のようなことを誘いだしたのかも知れない。
朝の駐輪場=海という発想がそれなりに個性的でありながら、突出していない

 

 

手垢のついた表現について

考えるために引き続き書く。専ら私ごとだが、私のブログだしアクセスも少ないので。

2004年に「ペイルグレーの海と空」を書いた意図は、自身にとっても複雑すぎて霧のようだ。
それが十年以上も私の深い処にひっかかり続けていて、落ち着かないのである。

海音にふたりの部屋は閉ざされてもういい何も話さなくても

冒頭の歌だがあまりに典型的な、型どおりの、しかし、ある型としては出来のいい部類の歌だ(と思う)。
作った当初から型どおりを意識していた。

この数年前に「ポップス」という連作を作っていたのを思い出す。
不倫する男女を主題にした連作で、ステロタイプな男女のどろどろを描いたものだった。
「ポップス」は不義の恋に身を焦がす男女の滑稽さを嘲笑する意図で書いた。気にいっていたがどこかにいっしまった。

「海音に~」の歌は、「ポップス」と同じように型どおりをめざしていながら、少なくとも作者はアイロニーを意図していない。
しかし、状況があまりにティピカルなので意地の悪い読み手がいたとしたら、アイロニーにもなり得るだろう。

海の近くが舞台なのは、ビーチボーイズの影響。
その頃は、型どおり、少しキツイ言い方だと、手垢のついた表現が重要だと思っていた。
ある表現が、手垢だらけになるのにはそれだけの理由がある、その表現が人間の本性にかなったものだからだ。
ザックリいうとこんな事を考えていた。

ついでに、だからこそ、現代詩が嫌いだった(今はそうではない)。

恋の歌を中心とした作品集

恋の歌で構成された作品集を編みたくて、最近、2000年代の作品を見直している。

短歌研究新人賞をとった「ペイルグレーの海と空」の頃。2004年の近辺。

過労死寸前まで追いこまれ、逃げるように仕事を辞めた時期だ。

ビーチボーイズのペットサウンズばかり聴いていた。

一日に何度も何度も聴く。それが毎日。

同居人はそれでこのアルバムが大嫌いになった。

呼気のたびに哀切な感情が雲のように沸く感じ。それでいて少しも押しつけがましくない感じ。

 

単純でいて単純でいてそばにいて単純でいてそばにいて

 

この歌はペットサウンズのDon’t Talk (Put Your Head On My Shoulder)という曲からインスパイアされた。

インスパイアとは大げさだな。

私はペットサウンズに魅せられるあまり、ペットサウンズをやりたかった。

(単純でいて‥はいい歌か?と問われると韻律に稚さが漂い微妙な部分がある。
だがその稚さは得がたいものだと今では思う。)

 

心身をおかしくして分かった事があった。

それ以前の冷笑的であったり、皮肉っぽい作品が自分にとって何のリアリティも無いという事である。

斜にかまえた態度は私の一時期の自意識を満足はさせたが、暴力的な現実に対してはバカバカしいほど無力であった。

(眠いのでやめるが続く、かもしれない)

歌集「みずからの火」への言及一覧

今年だした第三歌集について、ありがたい事に多くの方に言及いただいております。

ブログ、サイト等で触れていただいたものを順不同(ほぼグーグルで調べた順)にてリンク
SNSで触れていただいた方にもありがとう!

さいかち亭雑記ーさいかち真さん

▼存在しない何かへの憧れー工藤吉生さん

眠らない島ー岩尾淳子さん

壜ー高木佳子さん

馬場秀和ブログー馬場秀和さん

日々のクオリア(砂小屋書房)-染野太朗さん

短歌ブログ 浮遊物ー丸地卓也さん

《話題の新刊 (週刊朝日)》ー後藤明日香さん

 note-みずからの火」を読む 白井健康さん

 noteー嵯峨直樹 『みずからの火』(角川書店) とみいえひろこさん

まだ、あるかも知れません(まだあるよ!という方、連絡フォームにてご連絡いただけたら助かります)

 


みずからの火、嵯峨直樹

 

次は恋愛だけの歌集を編みたいなあと思ってます。