Category Archives: 2013年の結社誌の作品

2013年12月

晩夏(おそなつ)の血の色の夕 鳥たちは影を交えて暮らしを編めり

血の中に囀(さえず)りながら関係の層を編みゆく幹枝を軸に

ふち暗き積乱雲もくきやかに何と明るき幻滅の街

赤ん坊の喃語(なんご)は綿の如く浮く夏の終わりの蝉声の中

安っぽき照明の下打ち解けてスープきらめくうどん啜れり

落蝉を蹴飛ばしながら通学の子らは命の匂いを洩(も)らす

体温に近き風吹くこの夕べ桃二個分の重みをはこぶ

潰れたる月うっすらと光る夜リュック背負った家族連れおり

みず色の「ガリガリ君」の空袋路面を擦り舞い上がりたり

2013年11月

新しい廃院は街に孤立して窓に明るい陽ざしを返す

西の陽の深く射し込むバスの席はだかの腕は汗を纏(まと)って

暗緑に光れる宇治金時の山を崩して寡黙な二人

尾てい骨の窪みしずかに眠る人かすかに響く川の音を聞く

糸口を知る、高体温の耳裏に息づくものがあると知らせる

寂しみを習慣として保つ夜は桃の薄皮に指湿らせる

平地部を覆える雲の芯暗し雨後のごとくに人はつやめく

何ひとつ決着せずに死んでゆくトレッドミルを走る生き物

しめやかに汗は流れてシャツに入る大吊橋を渡りいる頃

夕雲の裂け目に夏の茜溢れ、かく大過なき習慣にいる

2013年10月

アスファルトの荒き処(ところ)を水浸し雨後の巷に人は匂えり

しらじらと無瑕疵(むかし)の月は照りており関係の根は底へ伸びいて

人と人なれば瞬く機微があり改札前のふいの深まり

夕光にフォルム光らせ自動車のあまた行き交う 誰の晩年

増水の兆しを見せる黒き川つやめきながら街を映せり

うろこ雲ことに細かき暮れ方に半袖しろき母とふたり子

指触れし後の敏(さと)さを伏せながら何装いて初々しかり

揚力を抑え抑えて呼気ほそく夕影きらめく町川をわたる

男らは小さき根株揺らしつつ体乾かすジムの脱衣所に

2013年9月

明太子の粒子を春日に光らせてパスタからめるうつくしい人

繊月(せんげつ)は赤みを帯びて浮かびおり平坦地続く郊外の闇

身熱(しんねつ)を帯びた気体に包まれて細やかに花咲くを見ている

曇天に霧らうがごときヤマザクラ点々として山々昏し

たましいはひそかに燃焼しておりぬ泥み流れる夜の水音

2013年8月

肩越しに目配せされる一瞬の華やぎノブを静かに廻す

屋根よりは高く泳げる鯉のぼりパチンコ屋より見下ろしており

方形の郊外店舗は向かいあうTSUTAYAのブルー、ユニクロの朱

滑らかにエンジン音鳴らし間断なし日暮れの車道を行く乗用車

肉体の深処震わす感官の小暗き門は入り組みていて

冷房の風を素肌に当てながら誇るもの無き互いを晒す

すべらかな妹石の裏側にひったりと添う地面があって

2013年7月

蒸し返す、蒸し返さない、蒸し返す。花占いに黄薔薇むしって

黒々とおとこの子の鯉上げられる黄白色のあかつきの空

しろがねの銀河に浮かぶ春の夜の文学趣味の言の葉は美し

2013年5月

情熱の余熱のように浮かぶ月 遊具の影は黒く盛り立つ

冬天に事を起こした痕のごと繊月白く照り続けおり

薬指の関節にまで力こめるカシスの苦み兆し始めて

唐突に火中の栗に成っている 炎の向こう人の生活

夕刻の冷気を連れてきた人はファンデーションの匂いをさせて

 

2013年4月

開ききるこころの浅瀬きららかな光の綾を返し続ける

経験に汚れて迂回する雪の下層に昏(くら)い水滲みだす

粉塵をまとう残雪 毎日を清らかならぬ意思をもて生く

残雪の日毎に煤けゆく様を関わりなしと今は思わず

愛情を脂肪深くに堀り当てる大岡川の水ゆるむころ

 

2013年3月

社会的役割からくる自負心をブレンドしつつ生き急ぐのか

幻を喰いあう二匹の動物が横たわっている昼のシーツに

駅前の坂を二人で下りてゆくさかんに燃える夕雲の下

泣きながらとてもゆっくり殴りあう、ような世界にもう長くいる

ひと一人の規模を侮る言葉尻、首都は臓器のようにつやめく

わが肉の奥なる異音、あわ雪に降られて人を待てば鋭し

2013年2月

久々のキスで確かめられている奥歯の治療の進行程度

冠を被せた奥歯の一列を《いい気な愛》に確かめられる

紫蘇の葉は鬱血の色して群れる記憶に殴打の跡を持つひと

男児ひとり青年めいて来る頃のとおさんにだって人生はある