Monthly Archives: 12月 2013

花冷え

 

スーパーの薄い袋を柑橘で充たして運ぶ春浅い夜に

両岸はさくらの盛り 水面にみすぼらしくない二人が映る

薄らかで苦い月光しらじらとおんなの脚のかたちを照らす

粘っこく不思議に甘い体温を纏(まと)って笑う大いなる人

月光はゆきとどいている薄白い耳のかたちが闇に浮かんで

熱源に二人で成って寝室のいい気な愛に語尾湿らせる

結んでは消える魂はるかなる河辺になだれ咲く花の下

『美志』4号 2013年

半地下

 

冬空の白の偏り在るところ裂傷のごと陽は烈しかり

この冬の愛憎憎に転がれり一夜で嵩(かさ)を増している雪

憎悪とは完璧な愛 対岸の私と銃を撃ち合う遊び

愚かなる自然になってしまうだろう二人並んでジーンズ脱げば

日常が猛スピードで過ぎて行く今日は二人は半地下にいる

戯れる唇の間を流れゆく水、愚かなる水というもの

よく慣れた背中、太股、足の指。触れると今日も寝入ってしまう

恥知らずではない二人口づけに飽きた頃には愛を言い合う

言い合って通い歩いた道のりに小公園は寂れていたり

隈も無く馴染んだ体屈託と言えばなべて赦すのだろう

雪うすく路面に積る 表側ばかりか裏も妥当なばかり

倦怠は愛を穏しくするものか寝入った人の髪を撫でつつ

『美志』3号 2012年

 

盛夏の手紙

 

美しくカーブしている肋骨の内がわに建つ薄明の城

紫陽花の数か所枯れて枯れつくすまで待ちわびる盛夏の手紙(ふみ)を

雨の来る噂があって鳥獣店前の十字路人影まばら

薄白い機影が空を飛んでいる剥がれはじめた世界のように

側溝に片寄り落ちる青梅の傷つきあいの日々もあったか

体温は葡萄のいろの室内に確かにあった  指を離すな

雨粒を弾いて揺れているうちに匂いたちたり白き花々

触れているだけで硬さを増してゆく類いのことは放置しておけ

赤茄子の汁滴らせ食べるひと髪先を頬に遊ばせながら

一日を雨が濡らしていたらしい 胸の底部の湿りに気づく

身体は闇に閉じかね濡れている一つの愛を遂げたる後も

乱れたる髪かきわけて白い耳を発掘したり夏空の下

夏空の底に沈める滓のごと歩みておりぬ 人というもの

『美志』2号 2011年

冬のたましい 

たましいの輪郭すこしささくれて。暗く流れる川をみている

8階の小部屋でランチの封を解くチキンの匂いに少し落ち着く

あたたかな乳房に耳を圧しつけて寝ている人の心音を聴く

水の音するどく部屋に響いてる ゆめの神殿みたい壊れる

たましいの底部の傷を探りだす手つきで後ろから抱いている

その名前だけはセカイの底にある はるかな夏に開く向日葵

『美志』1号 2011年

2013年12月

晩夏(おそなつ)の血の色の夕 鳥たちは影を交えて暮らしを編めり

血の中に囀(さえず)りながら関係の層を編みゆく幹枝を軸に

ふち暗き積乱雲もくきやかに何と明るき幻滅の街

赤ん坊の喃語(なんご)は綿の如く浮く夏の終わりの蝉声の中

安っぽき照明の下打ち解けてスープきらめくうどん啜れり

落蝉を蹴飛ばしながら通学の子らは命の匂いを洩(も)らす

体温に近き風吹くこの夕べ桃二個分の重みをはこぶ

潰れたる月うっすらと光る夜リュック背負った家族連れおり

みず色の「ガリガリ君」の空袋路面を擦り舞い上がりたり

2013年11月

新しい廃院は街に孤立して窓に明るい陽ざしを返す

西の陽の深く射し込むバスの席はだかの腕は汗を纏(まと)って

暗緑に光れる宇治金時の山を崩して寡黙な二人

尾てい骨の窪みしずかに眠る人かすかに響く川の音を聞く

糸口を知る、高体温の耳裏に息づくものがあると知らせる

寂しみを習慣として保つ夜は桃の薄皮に指湿らせる

平地部を覆える雲の芯暗し雨後のごとくに人はつやめく

何ひとつ決着せずに死んでゆくトレッドミルを走る生き物

しめやかに汗は流れてシャツに入る大吊橋を渡りいる頃

夕雲の裂け目に夏の茜溢れ、かく大過なき習慣にいる

2013年10月

アスファルトの荒き処(ところ)を水浸し雨後の巷に人は匂えり

しらじらと無瑕疵(むかし)の月は照りており関係の根は底へ伸びいて

人と人なれば瞬く機微があり改札前のふいの深まり

夕光にフォルム光らせ自動車のあまた行き交う 誰の晩年

増水の兆しを見せる黒き川つやめきながら街を映せり

うろこ雲ことに細かき暮れ方に半袖しろき母とふたり子

指触れし後の敏(さと)さを伏せながら何装いて初々しかり

揚力を抑え抑えて呼気ほそく夕影きらめく町川をわたる

男らは小さき根株揺らしつつ体乾かすジムの脱衣所に

2013年9月

明太子の粒子を春日に光らせてパスタからめるうつくしい人

繊月(せんげつ)は赤みを帯びて浮かびおり平坦地続く郊外の闇

身熱(しんねつ)を帯びた気体に包まれて細やかに花咲くを見ている

曇天に霧らうがごときヤマザクラ点々として山々昏し

たましいはひそかに燃焼しておりぬ泥み流れる夜の水音

2013年8月

肩越しに目配せされる一瞬の華やぎノブを静かに廻す

屋根よりは高く泳げる鯉のぼりパチンコ屋より見下ろしており

方形の郊外店舗は向かいあうTSUTAYAのブルー、ユニクロの朱

滑らかにエンジン音鳴らし間断なし日暮れの車道を行く乗用車

肉体の深処震わす感官の小暗き門は入り組みていて

冷房の風を素肌に当てながら誇るもの無き互いを晒す

すべらかな妹石の裏側にひったりと添う地面があって

2013年7月

蒸し返す、蒸し返さない、蒸し返す。花占いに黄薔薇むしって

黒々とおとこの子の鯉上げられる黄白色のあかつきの空

しろがねの銀河に浮かぶ春の夜の文学趣味の言の葉は美し