歌集、「神の翼」抄出

歌集、「神の翼」は29のセクションに分かれています。
1セクションから1首づつ抄出しました。

神の翼(P9~)

ゆびさきをからだに沈ませゆく頃に中国製の目覚ましがな鳴る

レバレッジ(P15~)

最高に君の輝く時が来た 脳内の「負」をファブリーズして

ペイルグレーの海と空(P20~)

髪の毛をしきりにいじり空を見る 生まれたらもう傷ついていた

市民プラザ(P29~)

全身にくちづけてゆく儀式かな卵のような常夜灯照る

クラス(P34~)

からっぽになれたらもっと愛されるたとえばきれいに笑う妹

アクセル(P40~)

上からの指示で降りゆく 経血のぬるく滴るような世界へ

処 理(P45~)

軽いかぜ髪にはらませ立ちあがる からだにかたい芯ひそませて

エンドレス(P52~)

ひとびとが各自のパターンを保持しつつ避け合うようにラインを描く

遊 具(P59~)

単純でいて単純でいてそばにいて単純でいてそばにいて

Abe 2.0(P65~)

誰もかも浅い地獄を生きている〈名無し〉のままの仮死を選んで

明 星(P70~)

僕たちはあらたな枝をひろげゆく総ての愛のほろぶ湖底に

春の収支(P75~)

飲み終えたカップの底の砕氷は百円玉のようなきらめき

擦過音(P80~)

ほら僕の浅瀬のような優しさに悦びながら跳ねていたんだ

なかったんだよ(P85~)

遊園地の機械が廻る昼下がり〈なかったんだよ〉突風は吹く

霧(P91~)

気にかけて気に病むという関わりのすぐ隣には愛のかたちか

紋 白(P95~)

日盛りの市営緑地に紋白と紋黄飛び交う差異をきそって

模 様(P100~)

われの内部の魚眼レンズにかろうじて映る人かげ君かと思う

月の面(P104~)

誰かさん、誰かさんって言いながら月の面に指紋をつける

てのひら(P109~)

トイレへと立った女が後ろ手でドアを閉め去る 闇を見ている

リンス(P115~)

リンス、リンス、犬の名前にちょうどいい香りだ君の女ともだちは

幸福を探る左手(P120~)

半そでのむきだしの腕と触れ合えば君は確かに僕ではないが

ジャンプ(P124~)

分別を知っていていい年頃の 室内でする華美な花火の

カレー鍋(P130~)

オレンジの光のなかで素裸のひとはミネラル水をとりだす

滅菌された神(P134~)

透明で短い笑いを習ったらノイズなしでも怖くはないね

呼 吸(P138~)

呼吸音微妙にずらし合いながらまひるま誰と隣あってる

小 鳥(P141~)

キッチンに淡い光が差し込んで姉は野菜の水滴はらう

綱渡り(P146~)

落ちたらばしぬのに落ちたことはない綱渡りかも見つめ合うたび

水(P451~)

ベランダにでるたびあたしつぶやくの「アムロいきます、アムロ、いきます」

ライカ(P154~)

僕たちは今ここにいて失った未来を思いだそうとしてる

⇒歌集「神の翼」 嵯峨直樹著(アマゾン)

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