あなたとの関係のうちどの層で呼びあったのか 淡淡と雨
ひたひたと路面を濡らす雨水のぬくさのような会話に慣れて
自意識の芽生えはじめの頭頂にハチミツ色の春の陽が差す
あなたとの関係のうちどの層で呼びあったのか 淡淡と雨
ひたひたと路面を濡らす雨水のぬくさのような会話に慣れて
自意識の芽生えはじめの頭頂にハチミツ色の春の陽が差す
情熱の余熱のように浮かぶ月 遊具の影は黒く盛り立つ
冬天に事を起こした痕のごと繊月白く照り続けおり
薬指の関節にまで力こめるカシスの苦み兆し始めて
唐突に火中の栗に成っている 炎の向こう人の生活
夕刻の冷気を連れてきた人はファンデーションの匂いをさせて
開ききるこころの浅瀬きららかな光の綾を返し続ける
経験に汚れて迂回する雪の下層に昏(くら)い水滲みだす
粉塵をまとう残雪 毎日を清らかならぬ意思をもて生く
残雪の日毎に煤けゆく様を関わりなしと今は思わず
愛情を脂肪深くに堀り当てる大岡川の水ゆるむころ
社会的役割からくる自負心をブレンドしつつ生き急ぐのか
幻を喰いあう二匹の動物が横たわっている昼のシーツに
駅前の坂を二人で下りてゆくさかんに燃える夕雲の下
泣きながらとてもゆっくり殴りあう、ような世界にもう長くいる
ひと一人の規模を侮る言葉尻、首都は臓器のようにつやめく
わが肉の奥なる異音、あわ雪に降られて人を待てば鋭し
久々のキスで確かめられている奥歯の治療の進行程度
冠を被せた奥歯の一列を《いい気な愛》に確かめられる
紫蘇の葉は鬱血の色して群れる記憶に殴打の跡を持つひと
男児ひとり青年めいて来る頃のとおさんにだって人生はある
清らかな雨降る下で憎み合う緑の傘を二人で分けて
暗やみの熱い身体 たましいを確かめるよう抱きしめてゆく
手を伸ばし握りあいたる一瞬に命くまなく知り合っている
大いなる手が現れて体ごと新たな壁に撃ちつけられる
濁水のはるかな底に真実の形を模した真実がある
チュニックの下に大方隠された愛の歴史と内臓脂肪
今脱いだ下着が放熱するソファ 浅い水辺でしばらく遊ぶ