水に春しんしん映るこの朝をa painというタイトルにする
家族分展(ひろ)げて干せばまばゆくて傘とはこんなに輝くものか
溜まりゆく涙のなかの夕空のゆらぎの中に夕ぐれの国
氷イチゴ食みつつ紅の水になるわたしとあなたは女ともだち
蕎麦の花しろくゆれおりこの夏はあんな感じの帽子を買おう
のびやかな言葉運びが印象的な第一歌集。作者は二〇一二年に中城ふみ子賞を受賞している。掲出一首目。明るい春の景色の中の張りつめた痛みのようなものを見つめる。二首目は家庭の幸福を描いているが、そのまばゆさに幸福な風景が一瞬にして消え去るような印象があり喪失の予兆を思わせる。掲出五首目の衒いのない文体も魅力的だ。 (嵯峨直樹)
2015.1 未来 「今月の歌」