歌集、「半地下」は23のセクションに分かれています。
1セクションから1首づつ抄出しました。
回送車(P7~)
やわらかに肉ふるわせて尿をする音を聞きおり冬の寝床に
残雪(P16~)
月熟れて黄金色の夜は更けて不遇であれば我らは清し
エゾヤマザクラ(P24~)
沸点のたましい痛みを帯びているきらめく天に雲の張る夜
アルミニウム(P34~)
アパートのプラスチックの雨樋にこの世のしずく鋭く光る
串だんご(P42~)
関係に入りて色づきいる初夏のお昼やすみの雲のかがやき
筈はない国(P48~)
潰れかけのシュークリームを守りつつ少女の坐る駅の階段
存在の火力(P57~)
男らは疲れた臓器揺らしつつ駅の階段駆け下りてゆく
脂身(P62~)
夕刻の冷気を連れてきた人はファンデーションの匂いをさせて
花冷え(P66~)
深まってゆく途中かも深夜バス髪をかさねるように寝入って
トレッドミル(P72~)
屋根よりは高く泳げる鯉のぼりパチンコ屋より見下ろしており
集積所(P79~)
定年を迎えた人が散歩する腹の汚れたスピッツ連れて
菌(P86~)
自殺者のいのちの火照り増してゆく雨しめやかに降りしきる夜
宇治金時(P96~)
暗緑に光れる宇治金時の山を崩して寡黙な二人
斎場(P101~)
内またに脚を伸ばして泣いている 二人の娘を授かった人
半地下(P107~)
戯れる唇の間を流れゆく水、愚かなる水というもの
華やぎ(P114~)
肉体のくらやみに差す一瞬の光うわべに指すべらせて
洞(P119~)
アパートの夜のキッチン冷えている 細くするどい長葱の影
夏のゆめ(P125~)
大皿や小皿が水をくぐる音きこえる夏のゆめは浅くて
ヘルシーライフ(P131~)
コーヒーの缶の数個が灰皿と化す残業の続く事務室
盛夏の手紙(P135~)
胸板を上下させつつ呼吸する甘いイキモノ 水で充たされ
ファイネストアワー(P144~)
知性とは妥当な闇を選ぶ事 分別ざかりのゴミの捨て方
近しさ(P149~)
眼を瞑るようにして視る幻であるべきものを射落とすように
関係のうす闇(P156~)
あなたとの関係のうちどの層で呼びあったのか 淡淡と雨