カップの内の泡つぶを数えはじめる子のひかり
ぐいとひとがひけばあるきだす繰り返しつつ夕暮れて 犬
いつよりか声うしなわれてひと日ひと日と口奥の砂嵐
銀杏の実の匂い立つ砂利の道もうだれもしらない
雨の 音 雨の 音 めざめてくらく明け方の粒の重さは
高橋みずほ 『坂となる道』より
第六歌集。言葉のきらめきを瞬間冷凍させたような作品が並ぶ。言葉の接続の仕方はどれも順当なものではない。例えば一首目の結句、「子のひかり」は数を覚えはじめた子供の命の、いっときの輝きを的確に捉える。やや強引な言葉の接続は短歌的なフォルムを意図的に逸脱しており、世界とのより直接的な、より生な関わり方を試みる。 (嵯峨直樹)
2014.5 未来 「今月の歌」