私の悪態も愚痴も引き受けてなお美しかったのだ故郷は
祖父よ眼を閉じてもよいか烈風に煽られて針のように雪来る
昭和を生きて昭和に祖父は眠るなり我はおろおろ平成にいて
黒く重く阿武隈川は流れゆく吹雪にしびれいる福島を
かなしみのように糖度は増してゆく桃の畠に陽の傾ぐとき
福島出身の作者の第二歌集。前歌集『桃花水を待つ』は、中東アブダビでの生活を描きながらも、常に郷里に住む家族、自然への愛に立ち還るのが印象的だった。郷里への帰属意識をとうに失った人も多いだろうが、(それが不幸だとは言わないが、)この人は違う。原発事故で郷里を汚された哀しみが歌集全体を覆う。郷里は祖父母から受け継いだ命の有り所なのである。 (嵯峨直樹)
2014.12 未来 「今月の歌」