ゴミ死(あまい散かり)

室内はあかるい水に濡らされて青いデジタル文字のぎとつき

浴室の黒くつやめく鏡面に熱おびた眼がときおり映る

ひと肌を血のふくらみがおりてゆく光にかたく結ばれた夜

暗闇の鏡の映す暗闇を見つづける眼を見てはいけない

血の筋のきんいろ腕にはしらせてお風呂場ゴミが笑っていたよ

死んでいるゴミの微かなみじろぎはパイプベッドの節きしませる

死んでいるからだが白くうずくまるまひるま冷えたパイプベッドに

きみの踏むコアラのマーチこなごなで世界はなんてあまい散らかり

病室のまぶしい白に護られて近ごろとても死んでいるなら

冬の陽を汚しつづけるガラス窓 手首に甘い包帯まいて

痛ましいひかりが白くこもる雲 濡れた市街の真上に張って

春雨にかたち崩れて花びらの色を濃くする岸辺のさくら

細密に綿のあつまるタンポポを雨が損なう深くはいって

血のかおるやみ夜はげしい衝撃で割れた光が今日も張りつく

ももいろに染まる夕雲おりてきてほそい気道をおっとりふさぐ

おおよそは不完全でいい月球は春の夜空にしらしらと照る

薄い影とても濃くなるさわさわと視界のすみに鳥がさわいで


美志21号の冒頭作品になったので発表時のタイトルは少し穏当に「あまい散かり」にした。
ここ数年取り組んでいる作品群の一部