寂しげな枝ぶりの枝しならせて子ども二人を囲えるおんな
カモメパンの火事見物の人去って焦げた窓枠夜につやめく
春雨や玉のきらめき増えてゆく商用バンのリアガラスにも
アパートのプラスチックの雨樋にこの世のしずく鋭く光る
解いたらば後先もなく広がって髪ゆたかなる夜を統べおり
花まつり人から人へ渡されるアルミニウムの硬貨のひかり
寂しげな枝ぶりの枝しならせて子ども二人を囲えるおんな
カモメパンの火事見物の人去って焦げた窓枠夜につやめく
春雨や玉のきらめき増えてゆく商用バンのリアガラスにも
アパートのプラスチックの雨樋にこの世のしずく鋭く光る
解いたらば後先もなく広がって髪ゆたかなる夜を統べおり
花まつり人から人へ渡されるアルミニウムの硬貨のひかり
綿菓子のやすらかな張り部屋中を占めて明るい熱を吸いおり
屈託をやや強調し人去りぬ致命的ではない誤りなれば
スーパーの袋が音を立てて飛ぶ煤けた雪の残る国道
みぞれ雪の底に愛をあやつれる幼子の手の輝きてあり
男らは疲れた臓器揺らしつつ駅の階段駆け下りてゆく
温みいる臓器を冬の駅前に運び牛丼をかきいれており
牛丼の並つゆだくと生卵。届くまでを待つマスクを下げて
窓ガラスの汚れのように視野に在るぼやけた悪の向こうに花野
誰彼の余熱ばかりの小部屋たちそのひと部屋に冬陽はとどく
スーパーの薄い袋を柑橘で充たして運ぶ春浅い夜に
両岸はさくらの盛り 水面にみすぼらしくない二人が映る
薄らかで苦い月光しらじらとおんなの脚のかたちを照らす
粘っこく不思議に甘い体温を纏(まと)って笑う大いなる人
月光はゆきとどいている薄白い耳のかたちが闇に浮かんで
熱源に二人で成って寝室のいい気な愛に語尾湿らせる
結んでは消える魂はるかなる河辺になだれ咲く花の下
『美志』4号 2013年
晩夏(おそなつ)の血の色の夕 鳥たちは影を交えて暮らしを編めり
血の中に囀(さえず)りながら関係の層を編みゆく幹枝を軸に
ふち暗き積乱雲もくきやかに何と明るき幻滅の街
赤ん坊の喃語(なんご)は綿の如く浮く夏の終わりの蝉声の中
安っぽき照明の下打ち解けてスープきらめくうどん啜れり
落蝉を蹴飛ばしながら通学の子らは命の匂いを洩(も)らす
体温に近き風吹くこの夕べ桃二個分の重みをはこぶ
潰れたる月うっすらと光る夜リュック背負った家族連れおり
みず色の「ガリガリ君」の空袋路面を擦り舞い上がりたり
新しい廃院は街に孤立して窓に明るい陽ざしを返す
西の陽の深く射し込むバスの席はだかの腕は汗を纏(まと)って
暗緑に光れる宇治金時の山を崩して寡黙な二人
尾てい骨の窪みしずかに眠る人かすかに響く川の音を聞く
糸口を知る、高体温の耳裏に息づくものがあると知らせる
寂しみを習慣として保つ夜は桃の薄皮に指湿らせる
平地部を覆える雲の芯暗し雨後のごとくに人はつやめく
何ひとつ決着せずに死んでゆくトレッドミルを走る生き物
しめやかに汗は流れてシャツに入る大吊橋を渡りいる頃
夕雲の裂け目に夏の茜溢れ、かく大過なき習慣にいる
アスファルトの荒き処(ところ)を水浸し雨後の巷に人は匂えり
しらじらと無瑕疵(むかし)の月は照りており関係の根は底へ伸びいて
人と人なれば瞬く機微があり改札前のふいの深まり
夕光にフォルム光らせ自動車のあまた行き交う 誰の晩年
増水の兆しを見せる黒き川つやめきながら街を映せり
うろこ雲ことに細かき暮れ方に半袖しろき母とふたり子
指触れし後の敏(さと)さを伏せながら何装いて初々しかり
揚力を抑え抑えて呼気ほそく夕影きらめく町川をわたる
男らは小さき根株揺らしつつ体乾かすジムの脱衣所に
明太子の粒子を春日に光らせてパスタからめるうつくしい人
繊月(せんげつ)は赤みを帯びて浮かびおり平坦地続く郊外の闇
身熱(しんねつ)を帯びた気体に包まれて細やかに花咲くを見ている
曇天に霧らうがごときヤマザクラ点々として山々昏し
たましいはひそかに燃焼しておりぬ泥み流れる夜の水音
肩越しに目配せされる一瞬の華やぎノブを静かに廻す
屋根よりは高く泳げる鯉のぼりパチンコ屋より見下ろしており
方形の郊外店舗は向かいあうTSUTAYAのブルー、ユニクロの朱
滑らかにエンジン音鳴らし間断なし日暮れの車道を行く乗用車
肉体の深処震わす感官の小暗き門は入り組みていて
冷房の風を素肌に当てながら誇るもの無き互いを晒す
すべらかな妹石の裏側にひったりと添う地面があって
蒸し返す、蒸し返さない、蒸し返す。花占いに黄薔薇むしって
黒々とおとこの子の鯉上げられる黄白色のあかつきの空
しろがねの銀河に浮かぶ春の夜の文学趣味の言の葉は美し
あなたとの関係のうちどの層で呼びあったのか 淡淡と雨
ひたひたと路面を濡らす雨水のぬくさのような会話に慣れて
自意識の芽生えはじめの頭頂にハチミツ色の春の陽が差す