大崎瀬都『メロンパン』

感応式信号機に認知させるため軽自動車をせり出してみる

一生に二度ない今日の夕暮れをわれは寄席にてまどろみてをり

スカートのなかで左右の内ももが触れあつてゐる雨の七夕

さよならの挨拶のあとほほゑみの瞬時に消える彼女はいつも

われにまだ父母ありて川花火を見てをり団扇の風を受けつつ

大崎瀬都    『メロンパン』より

 

第三歌集。描写のゆきとどいた作風が特徴。一首目、三首目のようにきめ細やかさのレベルはほとんど瑣事といっても良いくらいである。これら日常の瑣事が作者の手にかかると奇妙に強力な輝きを放つ。その理由は、掲出二首目の「一生に二度ない」という一語に集約されるだろう。生と死へのクリアな認識が著者の作品の底流には常にあり、切ない。         (嵯峨直樹)

2014.7 未来 「今月の歌」