はぐれてもどこかで会へる 人混みに結び合ふ指いつかゆるめて
腑を裂けば卵あふれたりあふれきてもうとどまらぬいのちの潮(うしお)
それでも朝は来ることをやめぬ 泥の乾(ひ)るひとつひとつの入り江の奥に
原発に子らを就職させ来たる教師達のペンだこを思(も)ふ
目にかかる髪を幾度も払ひをり海から海へ吹いてゆく風
梶原さい子『リアス/椿』より
気仙沼出身の作者の第三歌集。歌集は二つの章に分断され、東日本大震災前の歌を「以前」、震災後の歌を「以後」としている。掲出二首目までが「以前」、三首目からが「以後」。詠われている素材はもちろんだが歌柄が大きく三陸沿岸の風土を思わせる。五首目は、湿った冷たい海風に髪を晒し、その風土そのものになろうとしているようでもある。 (嵯峨直樹)
2014.9 未来 「今月の歌」