2014年4月

 

人生に陥没地ある人びとが集いて寂しく栄えていたり

存在の火力を下げてどんづまりの雪の家屋に父は息づく

細やかな雪にまつ毛をしならせて歩みいるらん午後5時の街

やわらかに肉ふるわせて尿をする音を聞きおり冬の寝床に

回送車、そう回送車軽い音たてて郊外の車庫へ向かいぬ

ほつほつと綻びがでてきているがほつれの先にも日差しは載って

 

2014年3月

 

スカートの歩幅に熱を纏(まと)わせて女は橋を渡ってゆけり

街川にうっすらと張るたましいは強い夜風に細切れになる

マンションに二人こもって蟹をくう 湯よりはみ出す赤い脚たち

月光のあまねく照らす寝室に女の咳の低音ひびく

違和のある表情のみが残りおり人肌とけた闇の芯として

瓶の底に白い輪残し消えた人 台所には切り身の匂い

 

 

漏れの国 2 ( 2014年2月)

 

族あがりの人と平行線のまま眺める古いプロパンガス屋

店頭に積まれたゼリー透きとおり桃の欠片(かけら)を宙に浮かべる

潰れかけのシュークリームを守りつつ少女の坐る駅の階段

紫のスウェット上下と茶の髪と。僕ら同じであった日々のこと

自転車の灯り連なる秋の夜の夕やみ人の臭いは満ちて

融けながら暗部を軽く言い合えば体液すこし漏らしてしまう

自転車の燈火のゆらぎ連なって常世の湿地帯へと続く

 

 

 

漏れの国 1 ( 2014年1月)

 

<空車>という電光赤く光らせてタクシー巡る台風の夜

傘に附く雨つぶつぶと増えてゆく通学児童の喉あかるくて

コーンスープの黄色いかけら夢をみるように少女は殺されていた

朝の水こぼして新聞濡らすひと周辺視野で気づいてはいる

きんきんに冷えてる水と錠剤とシュークリームを持って火星へ

残尿がじんわり漏れて温かいあべのみくすに跨る夜更け

とろとろのスープに融けていたのだが誰のスプーンの冷ややかな違和

 

 

 

花冷え

 

スーパーの薄い袋を柑橘で充たして運ぶ春浅い夜に

両岸はさくらの盛り 水面にみすぼらしくない二人が映る

薄らかで苦い月光しらじらとおんなの脚のかたちを照らす

粘っこく不思議に甘い体温を纏(まと)って笑う大いなる人

月光はゆきとどいている薄白い耳のかたちが闇に浮かんで

熱源に二人で成って寝室のいい気な愛に語尾湿らせる

結んでは消える魂はるかなる河辺になだれ咲く花の下

『美志』4号 2013年

半地下

 

冬空の白の偏り在るところ裂傷のごと陽は烈しかり

この冬の愛憎憎に転がれり一夜で嵩(かさ)を増している雪

憎悪とは完璧な愛 対岸の私と銃を撃ち合う遊び

愚かなる自然になってしまうだろう二人並んでジーンズ脱げば

日常が猛スピードで過ぎて行く今日は二人は半地下にいる

戯れる唇の間を流れゆく水、愚かなる水というもの

よく慣れた背中、太股、足の指。触れると今日も寝入ってしまう

恥知らずではない二人口づけに飽きた頃には愛を言い合う

言い合って通い歩いた道のりに小公園は寂れていたり

隈も無く馴染んだ体屈託と言えばなべて赦すのだろう

雪うすく路面に積る 表側ばかりか裏も妥当なばかり

倦怠は愛を穏しくするものか寝入った人の髪を撫でつつ

『美志』3号 2012年

 

盛夏の手紙

 

美しくカーブしている肋骨の内がわに建つ薄明の城

紫陽花の数か所枯れて枯れつくすまで待ちわびる盛夏の手紙(ふみ)を

雨の来る噂があって鳥獣店前の十字路人影まばら

薄白い機影が空を飛んでいる剥がれはじめた世界のように

側溝に片寄り落ちる青梅の傷つきあいの日々もあったか

体温は葡萄のいろの室内に確かにあった  指を離すな

雨粒を弾いて揺れているうちに匂いたちたり白き花々

触れているだけで硬さを増してゆく類いのことは放置しておけ

赤茄子の汁滴らせ食べるひと髪先を頬に遊ばせながら

一日を雨が濡らしていたらしい 胸の底部の湿りに気づく

身体は闇に閉じかね濡れている一つの愛を遂げたる後も

乱れたる髪かきわけて白い耳を発掘したり夏空の下

夏空の底に沈める滓のごと歩みておりぬ 人というもの

『美志』2号 2011年

冬のたましい 

たましいの輪郭すこしささくれて。暗く流れる川をみている

8階の小部屋でランチの封を解くチキンの匂いに少し落ち着く

あたたかな乳房に耳を圧しつけて寝ている人の心音を聴く

水の音するどく部屋に響いてる ゆめの神殿みたい壊れる

たましいの底部の傷を探りだす手つきで後ろから抱いている

その名前だけはセカイの底にある はるかな夏に開く向日葵

『美志』1号 2011年

2013年12月

晩夏(おそなつ)の血の色の夕 鳥たちは影を交えて暮らしを編めり

血の中に囀(さえず)りながら関係の層を編みゆく幹枝を軸に

ふち暗き積乱雲もくきやかに何と明るき幻滅の街

赤ん坊の喃語(なんご)は綿の如く浮く夏の終わりの蝉声の中

安っぽき照明の下打ち解けてスープきらめくうどん啜れり

落蝉を蹴飛ばしながら通学の子らは命の匂いを洩(も)らす

体温に近き風吹くこの夕べ桃二個分の重みをはこぶ

潰れたる月うっすらと光る夜リュック背負った家族連れおり

みず色の「ガリガリ君」の空袋路面を擦り舞い上がりたり

2013年11月

新しい廃院は街に孤立して窓に明るい陽ざしを返す

西の陽の深く射し込むバスの席はだかの腕は汗を纏(まと)って

暗緑に光れる宇治金時の山を崩して寡黙な二人

尾てい骨の窪みしずかに眠る人かすかに響く川の音を聞く

糸口を知る、高体温の耳裏に息づくものがあると知らせる

寂しみを習慣として保つ夜は桃の薄皮に指湿らせる

平地部を覆える雲の芯暗し雨後のごとくに人はつやめく

何ひとつ決着せずに死んでゆくトレッドミルを走る生き物

しめやかに汗は流れてシャツに入る大吊橋を渡りいる頃

夕雲の裂け目に夏の茜溢れ、かく大過なき習慣にいる